頼むから自由にしてくれないか?

創作、ブンゲイファイトクラブ、六枚道場について綴る文芸にんげん。あとたまにラーメンと仮想通貨。ラーメンライター。

アスパラガスは夜の沈黙(短編小説)

たくさんさける。いやなことから裂ける。いやなことを避ける。いやなことだって咲ける。
激しく芽が出る。

人間の元に突如として現れた緑色の細長い植物。それは人をストレスから解放した。それを握って「turn(曲がれ、さけろ、回せ、ひねろ、切り替えろ、といった方向の転換)」と願うと、それは分裂し、二つになった。新しくできたそれには人の嫌な気持ちが詰まっていた。それは回収装置によって拾われ、どこかに飛んで行く。
私たちに潜む夜は消えた。私たちにもたらされたのは明るい光だった。私たちはそれをアスパラとか、アスパラガスと呼んだ。

アスパラガスは代表者を一人地球に寄越した。私たちは親しみを込めて彼を「陛下」と呼ぶ。

陛下はヒューマノイドインターフェースなので、人間の形をしている。普段は眠っている。47日に一度目を覚まし、人に指標を示してくれる。

分体は回収され、木星に運び込まれる。そこでストレスを取り出され、脱け殻はかさかさと動き回る生物になる。脱け殻はあらゆる虚構が餌。虚構はストレスの元。アスパラガス星には脱け殻がたくさんあるのでストレスがない。必要以上の脱け殻は木星に投棄されていた。ストレスは何万光年も先にあるアスパラガス星に運ばれ、丁寧に加工されてアスパラガス星人の嗜好品として摂取される。アスパラガス星人は脱け殻のおかげでストレスを感じない。常に穏やかで争いもせず、漂うように暮らしている。


ある日「陛下」が私を呼び出した。
陛下は私に木星に行くように行った。木星に行けば人類の繁栄が約束されるらしい。宇宙船が準備され、私はそこに何人かの搭乗員と共に乗り込む。

木星には脱け殻がたくさんいた。脱け殻は虚構を食べるので、嘘つきたちを愛した。搭乗員はみんな嘘つきばかりだったので、脱け殻に愛着を感じ、地球に戻りたくなくなった。私は宇宙船に乗り込み、地球に戻ろうとするが、アスパラガス星にワープしてしまう。


アスパラガス星で私は重要人物として迎えられた。私のストレスは全て吸い付くされ、私はアスパラガス星人のようになった。彼らとの違いは、一つだけ。アスパラガス星人は夜を認識できなかった。彼らは暗闇を感じたことがない。彼らの星の回りは常に光輝く星が回っていたので、夜が訪れなかった。また、精神的にストレスを感じないため、暗い感情も起こらなかった。
私はその生活に嫌気が差し、宇宙船でアスパラガス星から逃げようとする。しかし、アスパラガス星人は宇宙船で追いかけてくる。仕方なく私は宇宙船の防衛装置でアスパラガス星人を攻撃した。アスパラガス星人は他者を「攻撃する」という概念を持っていなかった。始めてその概念に触れたアスパラガス星人は、種族間で攻撃しあい、破滅した。


私は冥王星に不時着した。そこには陛下がいた。陛下は「地球から夜が消えてしまったので、こっちに引っ越してきた」と言った。また、「実のところを言うとね、私はアスパラガス星人が嫌いだったんだよ」と言った。
陛下は夜がほとんどの冥王星で暮らすらしい。私は陛下と別れ地球に赴く。地球では何万年もの時が流れていて、人々は沈黙していた。幸福そうに目を閉じ眠っていた。ストレスがなくなったからだ。
私はなにもすることがないので、この大量に余ったアスパラガスをソテーして食べることにした。